エレベーターに乗ると、正面に大きな鏡があります。
前髪を直したり、ネクタイの曲がりを確かめたり。到着までの数十秒で、身なりを整えるのにちょうどいい。そういう気配りだと思っていました。
車いすの人が、後ろを見るためのものです。
狭いかごでは、後ろ向きで降りるしかない
車いすで方向を変えるには、それなりの広さが必要です。
バリアフリー法にもとづく基準では、不特定多数が使う一定規模の建物について、かごの幅を140センチ以上とし、車いすが転回できる形状にすることが求められています。
逆に言えば、そこまでの広さがないエレベーターでは、中で向きを変えられません。
前向きで乗り込んだ人は、降りるときも前を向いたまま。つまり後ろ向きに出ていくことになります。
背中側は見えません。扉の位置も、外に人がいるかどうかも分からない。
そこで正面の壁に鏡を置きます。前を向いたまま、背後の様子が見える。降りるための道具として付いているわけですね。
メーカーも、そう説明している
思いつきの解釈ではありません。
東芝エレベータの公式サイトには、バリアフリー機能の説明としてこう書かれています。
「車いすの方が出入り口の様子を大きな鏡で確認でき、スムーズな乗り降りが可能となります」
2006年に制定されたバリアフリー法の流れで、駅などの公共交通機関を中心に、かご内の鏡が広まっていきました。
なお、鏡には防犯や、かご内を広く見せる効果もあるとされます。目的がひとつだけとは限りません。ただ、少なくとも「身だしなみのため」が第一の理由ではなかった、ということです。
おまけ:鏡の位置を見れば分かる
確かめる方法があります。鏡の下端を見てください。
| もし身だしなみ用なら | 実際は |
|---|---|
| 顔が映れば足りる | かなり低い位置まで鏡がある |
| 胸から上の高さで十分 | 床に近いところから始まっている |
座っている人の目線に合わせてあるので、立っている人には不要なほど下まで鏡が続いています。
そして多くの場合、鏡は扉の正面にあります。降りる方向を映すためですね。位置も大きさも、ちゃんと理由があって決まっています。
明日エレベーターに乗ったら、一度だけ鏡の下のほうを見てみてください。今までと違って見えるはずです。
明日、こう話せる
誰かと一緒にエレベーターに乗ったときが、そのまま出番です。
「この鏡って、何のためにあると思う?」
たいてい「身だしなみでしょ」と返ってきます。
「車いすの人が後ろ向きで降りるとき、背後を確認するためなんだって。狭いかごだと中で方向転換できないから」
そう言ってから、鏡の下端を指さします。
「だから顔じゃなくて、座った目線に合わせてここまで低い」
その場に説明したいものがある雑学は、話が早く終わってよく伝わります。
