119番の最後の「9」。
ダイヤルを回すのに一番時間がかかる数字だから、慌てている人が少し落ち着ける。そういう配慮なのだと聞いたことがあります。よくできた話だな、と思っていました。
この説明、あとから生まれたもののようです。
最初の番号は「112番」だった
火災報知の専用番号ができたのは、1926年1月20日。電話が自動交換方式に切り替わったタイミングです。
それまでは交換手に「火事」と言えば済んでいました。機械が相手になると、番号が必要になります。
決まった番号は112番でした。
ダイヤル式の電話では、回す時間が数字ごとに違います。一番早いのが「1」、次が「2」、一番時間がかかるのが「0」。一刻を争う用途ですから、短い番号が選ばれたわけですね。
ところが運用を始めると、間違い電話が続出します。
ついには消防署から電話局へ、誤接続が多すぎると苦情が入るほどになりました。
原因は、消えない「手癖」だった
調べてみると、犯人は市民の指でした。
手動交換の時代、電話のかけ方はこうです。受話器を上げて、フックスイッチをガチャ、ガチャと2回上下させる。交換台のランプを点滅させて、交換手に気づいてもらうためですね。
自動交換に変わっても、この癖が抜けない人が少なからずいました。
ここで問題が起きます。フックを2回上下させると、ダイヤルで「1」を2回回したのと同じ信号が流れてしまう。
その手癖のあとに、神田局などの20番台の局番を回そうとすると、どうなるか。最初の「2」を押した時点で、信号は「1」「1」「2」。
消防署に、本人の知らないうちにつながっていました。
ちなみに、ダイヤル時間が一番短い111番は最初から欠番にしてありました。理由は同じで、ガチャを3回やる人がいるから。それを避けて2番目に短い112番にしたのに、結局ガチャ2回で捕まってしまったわけです。
おまけ:「9」が選ばれた本当の理由
1927年10月1日、番号は119番に変わります。
理由は2つ。ガチャガチャのあとに続けて「9」を回す人はいないだろうということ。そしてもう一つが決定的でした。
当時、90番台が局番に使われていなかった。
20番台から80番台までは丸の内や神田、浅草といった各局に割り当て済み。空いていたのが90番台だけだったんです。
つまり「9」が選ばれたのは、たまたま空いていたから。もし当時空いていたのが「7」だったなら、私たちは117番に電話をかけていたことになります。
落ち着くため、という説明が広まったのはずっとあとのことでした。
当時の東京中央電話局が加入者に配った通知には、変更の理由が「設備の関係から」と書かれています。市民の不慣れのせいにせず、自分たちの仕組みにも問題があると認めているところが、なんだか律儀ですね。
明日、こう話せる
消防車のサイレンを聞いたときが出番です。
「119番の9って、なんで9だと思う?」
たいてい「焦ってる人を落ち着かせるためでしょ」と返ってきます。私もそう覚えていました。
「違うらしいよ。最初は112番だったんだけど、間違い電話が多すぎて変えたんだって。昔の人が受話器のフックをガチャガチャやる癖があって、それが『11』になっちゃう」
そして最後にこれを足します。
「9にしたのは、当時その番号が空いてたから。7が空いてたら117番になってた」
しみじみした理由が、実務的な都合に置き換わる。その落差が面白い話です。
