1キログラムの基準だった金属の塊は、2019年に引退した

1キログラムの基準だった金属の塊は、2019年に引退した

1キログラムとは、何キログラムなのか。

変な問いに見えますが、どこかに「これが1キログラムです」という基準があるはずですよね。体重計の50キロは、その50倍という意味ですから。

2019年までは、金属の塊そのものでした。

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パリ郊外の金庫に、現物があった

1889年、質量の基準が決められました。

白金90パーセント、イリジウム10パーセントの合金でつくった分銅。これの質量が1キログラム、という定義です。国際キログラム原器と呼ばれ、パリ郊外の国際度量衡局に保管されていました。

形も決まっています。直径も高さも39ミリの円筒。手のひらに乗る大きさです。

この定義が、2019年5月19日まで使われ続けました。約130年間、同じ分銅が基準だったことになりますね。

複製はメートル条約の加盟国にも配られました。日本が1889年にパリで受け取ったのが「日本国キログラム原器No.6」。今も産総研で保管されています。

基準のほうが、動いてしまう

ところが人工物である以上、質量は変わりうる。

表面に汚れが付くだけでも違ってきます。各国の原器と比べ続けた結果、100年のあいだに50マイクログラム程度変動した可能性があると分かりました。

1億分の5です。髪の毛1本よりはるかに軽い。

ただ、これは困ります。基準そのものが動けば、世界中の「1キログラム」がそろって一緒にずれる。ものさしの目盛りが、年々こっそり伸び縮みしているようなものですね。

当時の技術者は自信を持っていました。この合金なら数万年経っても質量は変わらない、と豪語していたそうです。実際その安定性は非常に優秀で、だからこそそれを超える精度の基準をつくれず、定義を変えられなかった。

2012年の科学誌ネイチャーでは、キログラムの定義改定が、重力波の検出などと並ぶ物理学の未解決の重要課題5つの1つに挙げられていました。

おまけ:解決策は、原子を数えることだった

では、どうやって塊から卒業したのか。

原子を数えました。

シリコンの結晶を、直径およそ94ミリの球に磨き上げます。その中の原子が何個あるかを割り出し、1個あたりの質量を求める。

球に含まれる原子の数は、20兆の1兆倍個。

精度を上げるため、シリコンの同位体を99.99パーセントまで濃縮する必要もありました。それにはロシアの核技術が使われたそうです。原子の数を数えるという話が、一気に国際政治の色を帯びてきます。

こうして2019年5月20日、プランク定数という物理定数による新しい定義が始まりました。この日はメートル条約が結ばれた日で、世界計量記念日にあたります。

産総研でこの研究に取り組んだ方にとって、着手から30年目だったそうです。

明日、こう話せる

体重計に乗ったときや、料理で計量しているときが出番です。

「1キログラムって、何を基準に決まってると思う?」

たいてい「水1リットルじゃないの」と返ってきます。18世紀まではそれで合っていました。

「2019年まで、パリの金庫にある金属の塊だったんだよ。直径も高さも39ミリの円筒。あれの重さが1キロ、って決めてた」

そして最後にこれを足します。

「でもその塊、汚れたりして少しずつ変わっちゃう。だから今はシリコンの球の原子を数えて決めてる」

世界でいちばん厳密なはずの基準が、いちばん頼りなかった。そこが面白いところです。

参考

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この記事を書いた人

「どうせヒマなら」を運営している市田健人(いちだ けんと)です。東京でWeb制作とデザインの仕事をしながら、ベースケント合同会社(BASE KENT)の代表をしています。専門家ではありません。気になったことを調べて、裏が取れたものだけを書いています。定説が定まっていない話は「諸説あります」と正直に書く方針です。3分で読めて、誰かに話したくなる話を毎日ひとつ。暮らしとWeb制作の実用情報を扱う「Ex-TORANOMAKI」も運営しています。

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