「きゅうりって、世界一栄養がない野菜なんだって。ギネスにも載ってるらしいよ」
一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。私もそう覚えていて、サラダのきゅうりを少し気の毒に思っていました。
記録の名前が、違います。
認定されているのは「カロリー」の記録
ギネス世界記録がきゅうりに与えている記録名は、これです。
Least calorific fruit
日本語にすると「カロリー(発熱量)の最も低い果実」。カロリーの話であって、栄養全体の話ではありません。
面白いのは、これをはっきり書いているのがギネス世界記録の日本語公式サイト自身だということ。「発熱量がそのまま栄養素なのか」と問いを立てたうえで、厳密には違うと答えています。
英語で栄養を指すなら Food Value や Nutrition Value であって、calorific とは印象が大きく異なる。公式がそこまで丁寧に説明しているわけですね。
噂の側が、記録名をたった1語読み違えた。それだけの話でした。
そもそも「野菜」ですらない
もうひとつ引っかかる点があります。
記録名の末尾は fruit、つまり果実です。野菜ではありません。きゅうりはつる性の一年草がつける実なので、植物としてはそちらの扱いになります。
「世界一栄養がない野菜」という噂は、カロリーを栄養に、果実を野菜に、二重に置き換えて広まったことになりますね。
では中身はどうなのか。文部科学省の食品成分データベースで、きゅうりの数字を見てみました。
- エネルギー … 100グラムあたり13キロカロリー
- 水分 … 95.4グラム
たしかにカロリーは低い。ほぼ水です。記録が言っていることは、何も間違っていません。
一方でカリウムやβ-カロテンなどの数値もきちんと並んでいて、ゼロが続いているわけではありませんでした。記録は正しく、噂だけが膨らんでいた。そういう構図です。
おまけ:きゅうりのギネス記録は、ほかがだいぶ変
せっかくなので、ほかの記録も見てみました。これが想像以上でした。
- 最も長いきゅうり … 107センチ
- 最も重いきゅうり … 12.9キログラム
- きゅうりを刻む最速記録 … 13.4秒で264切れ
- 1分間に折ったきゅうりの最多数 … 118本
- 口にくわえたきゅうりを剣で切る、1分間の最多数 … 27本
- トランプを投げてきゅうりを切る、1分間の最多数 … 21本
後半は、もはや食べものとして扱われていません。
ちなみに長さと重さの記録は、どちらもイギリス勢が独占しています。巨大野菜のコンテスト文化が根づいているからだそうです。
栄養の話で気の毒がられている横で、きゅうりはこんな世界記録を山ほど持っていました。
明日、こう話せる
サラダや冷やし中華にきゅうりが乗っているときが出番です。
「きゅうりって世界一栄養がないんだよね、って言う人いるじゃん」
たいてい「ギネスに載ってるやつでしょ」と返ってきます。
「あれ、記録名が『いちばんカロリーが低い果実』なんだって。カロリーの話で、栄養の話じゃない。しかも野菜じゃなくて果実の記録」
そして最後にこれを足します。
「ギネス公式のサイトが自分で『それ違います』って書いてるんだよ」
噂を否定するときに、言い出した本人が否定している。いちばん強い持ち札です。
