スーパーのソース売り場。
ウスター、中濃、とんかつ。3本が並んでいますよね。味の濃さで選び分けているつもりでしたが、正体を知りませんでした。
国の規格に、とんかつソースはありません。
分類しているのは、味ではなく粘度
ソースには日本農林規格、いわゆるJASがあります。名前は「ウスターソース類の日本農林規格」。昭和49年の告示です。
そこに定義が書かれていました。驚いたのは、分け方が粘度ひとつだったことです。
- ウスターソース … 粘度が0.2パスカル秒未満
- 中濃ソース … 0.2パスカル秒以上、2.0パスカル秒未満
- 濃厚ソース … 2.0パスカル秒以上
味でも原料でもありません。どろっとしている度合いだけで、3つに切り分けられています。
パスカル秒というのは粘りけを表す単位です。数字が大きいほど、とろりとしている。つまりこの3つは、同じ仲間を濃さの順に並べただけでした。
ちなみに「ウスターソース類」そのものの定義も載っていて、野菜や果実の搾り汁などに砂糖類、食酢、食塩、香辛料を加えて作った、茶色または茶黒色の液体調味料とされていました。色まで決まっているわけですね。
「とんかつ」という言葉が、一度も出てこない
では、とんかつソースはどこに入るのか。
規格の全文を探してみました。「とんかつ」という語は、一度も出てきません。
第1条にはこうあります。この規格は、ウスターソース、中濃ソース及び濃厚ソースに適用する。3種類で終わりです。
つまり私たちが「とんかつソース」と呼んでいるものは、規格の上では濃厚ソース。粘度が2.0パスカル秒以上のグループに入ります。
とんかつソースという名前は、商品名としての呼び方であって、制度上の区分ではなかったわけですね。お好み焼きソースも焼きそばソースも、同じ場所にいることになります。
ちなみにこの規格、昭和49年に作られてから15回ほど改正されています。それでも粘度で3つに分ける枠組みは、一度も変わっていません。
おまけ:規格は、塩分や野菜の量まで決めている
ついでに規格を読み進めたら、ずいぶん細かく決まっていました。
たとえば特級のウスターソース。野菜と果実の含有率が10パーセント以上、食塩分は11パーセント以下。容器を振ったとき、沈んだ固形分が容易に散ること、という条件まであります。
濃厚ソースはもっと厳しくて、野菜と果実が20パーセント以上、食塩分は9パーセント以下。
どろっとしているぶん、中身も濃くないと名乗れない。そういう仕組みでした。
さらに食塩分の測り方の項には、硝酸銀溶液を使った滴定の計算式まで載っています。あのソースの一本一本が、こんな数式の向こう側にあるのかと思うと、少し見方が変わります。
明日、こう話せる
食卓にソースがあるときが出番です。
「とんかつソースって、国の規格にないの知ってる?」
たいてい「じゃあ何なの」と返ってきます。
「分類はウスター、中濃、濃厚の3つだけ。しかも分け方は粘度だけなんだって。とんかつソースは濃厚ソースの中に入ってる」
そして最後にこれを足します。
「境目の数字も決まってて、2.0パスカル秒以上が濃厚。味は関係ないんだよ」
ボトルの裏に「濃厚ソース」と書いてあれば、その場で答え合わせができます。
