いま手元にスマホがあれば、少しだけ試してほしいことがあります。
電話アプリを開いて、数字のボタンを見てください。次に電卓アプリを開いて、同じところを見てください。
並びが、上下でひっくり返っています。
まず、見比べてみてください
電話は上の段が1・2・3。電卓は下の段が1・2・3です。
| 電話 | 電卓 | |
|---|---|---|
| 上段 | 1 2 3 | 7 8 9 |
| 中段 | 4 5 6 | 4 5 6 |
| 下段 | 7 8 9 | 1 2 3 |
| 最下段 | * 0 # | 0 . = |
真ん中の4・5・6だけが同じで、上下が入れ替わっている。
私はこれを知ったとき、慌ててスマホを開きました。毎日どちらも触っているのに、20年以上気づかずに生きてきたわけです。
電卓はレジスター、電話はダイヤルの子孫
なぜ違うのか。答えは、両者の生まれが違うからです。
電卓の並びは、レジスターや加算機から受け継いだものです。お金の計算では0を打つ回数がとにかく多い。だからよく使う0を手前に置き、そこから近い順に数字を並べた。合理的な発想ですね。
一方の電話は、ダイヤル式の時代からの流れをくんでいます。円盤に1から順番に穴が並んでいた、あの黒電話です。
指を無駄に動かさずに済むよう、1から順に配置されていた。プッシュ式になったとき、その並び順をそのまま平面に移したというわけです。
出自がレジスターと黒電話。そもそも別の家系なんですね。
おまけ:決め手は0.16秒
面白いのはここからです。
プッシュ式の電話を作るとき、ベル研究所は配列を真剣に検討しました。1950年代から60年代にかけて、リチャード・デイニンガーらが16通りもの配置を用意し、実際に人に打たせて比べています。
円形に並べたもの、2列に並べたもの、電卓と同じ並びのもの。
結果はどうだったか。1960年の報告によると、電話式の配列は平均4.92秒、電卓式の配列は5.08秒。その差、わずか0.16秒。
このわずかな差で、電話の並びが選ばれました。そして世界中の電話が、いまの配置になっています。
さらに厄介なことに、現在は電卓がISO、電話がITU-Tと、管轄する国際規格の団体そのものが別です。統一しようという話にもなりません。
コンマ数秒の実験結果と、縦割りの規格。この2つが、私たちの指を毎日ひっくり返しているわけです。
明日、こう話せる
スマホを触っている人が近くにいれば、すぐ使えます。
「電話と電卓って、数字の並びが上下逆なの知ってる?」
たいてい「そんなわけない」と言われます。ここが最高の瞬間です。
「じゃあスマホで電話アプリと電卓アプリ、両方開いてみて」
たいていの人が確認して、変な声を出します。
そのあと「電卓はレジ由来で0を手前に置いてて、電話は黒電話のダイヤル順のまま」と説明すると、きれいに納得してもらえます。
