寒い日に外へ出た瞬間、腕がぶつぶつになる。
怖い話を聞いたときも同じです。ぞわっとして、皮膚が粟立つ。名前が付いているのは知っていても、何が起きているのかは考えたことがありませんでした。
毛を立てようとしています。もう、立てるほどの毛は生えていないのに。
皮膚の中には、毛を立てる筋肉がある
毛穴の根元には、立毛筋(りつもうきん)という小さな筋肉が付いています。
平滑筋という種類で、意識して動かすことはできません。動かしているのは交感神経です。寒さや恐怖、驚きに反応して、この筋肉がきゅっと縮む。すると毛が垂直に立ち、その周りの毛穴が盛り上がります。
あのぶつぶつは、毛の根元が引き起こされている光景なんですね。
立てても、もう意味がない
ではなぜ、毛を立てる必要があるのか。
毛の多い動物なら、答えははっきりしています。
| 毛の多い動物 | 人間 | |
|---|---|---|
| 毛を立てると | 毛の間に空気の層ができる | ほとんど層にならない |
| 保温効果 | 高い | ごくわずか |
| 見た目 | 体が大きく見え、威嚇になる | 変わらない |
寒ければ毛を立てて空気をため込み、断熱する。敵に会えば毛を逆立てて体を大きく見せる。猫が驚いたときに膨らむ、あれです。
ところが人間は、体毛のほとんどを失いました。立てる毛がないので、保温にも威嚇にもなりません。
それでも筋肉と神経の配線は残り、反射だけが動き続けている。使わなくなったスイッチが、壁に付いたままになっているようなものですね。
おまけ:無駄だと思われていた筋肉に、別の仕事があった
ここで終わると寂しい話ですが、続きがあります。
2020年、ハーバード大学の研究室などのチームが、科学誌『Cell』にこんな報告を出しました。立毛筋と交感神経は、毛を作る幹細胞を管理する仕組みの一部だったというものです。
交感神経は毛包の幹細胞とつながっていて、ノルアドレナリンという物質でその働きを調節している。立毛筋は、その神経を毛包につなぎとめる役目を果たしている。実験では、寒さにさらしたマウスのほうが毛の再生が進んだそうです。
ただし、これはマウスでの研究です。人間の髪の話に直接つながるものではありません。
それでも、無駄な名残だと思われていた筋肉が、別の役目を持っていた。 そういう発見が今も出てくるのは痛快です。
明日、こう話せる
誰かが「寒い」と言って腕をさすっているときが出番です。
「鳥肌って、毛を立てようとしてるの知ってた?」
たいてい「毛?」と返ってきます。
「毛穴に立毛筋っていう筋肉があって、寒いと縮んで毛が立つ。動物は毛の間に空気ためて暖をとるんだけど、人間はもう毛がないから意味ないんだよね」
そして最後にこれを足します。
「怖い映画で鳥肌が立つのも同じ。体は毛を逆立てて威嚇しようとしてる。効果はないけど」
自分の体が、いまだに毛むくじゃらのつもりでいる。そう思うと少しおかしくなります。
