夜中にふと目が覚めて、部屋を見回したことはありませんか。
家具の形は分かる。床に落ちた服の輪郭も見える。でも、その服が何色だったかは分からない。世界から色だけが抜け落ちています。
私はこれを、単に「暗いから見えにくいだけ」だと思っていました。
違いました。目のほうが、別のモードに切り替わっています。
目には、役割の違う2種類のセンサーがある
網膜には光を受け取る細胞が2種類あります。
| 錐体細胞 | 桿体細胞 | |
|---|---|---|
| 得意なこと | 色を見分ける | わずかな光を捉える |
| 光への感度 | 低い | 高い |
| 働く場面 | 明るいところ | 暗いところ |
| 色 | 分かる | 分からない |
昼間に働いているのは錐体細胞です。色をしっかり判別してくれます。ただし感度が低く、光が足りないと仕事をやめてしまいます。
代わりに出てくるのが桿体細胞です。こちらはごくわずかな光でも反応できる高感度のセンサー。ただし、色を見分ける能力を持っていません。
暗い場所では、色を捨てて感度を取っている
つまり暗いところで起きているのは、こういうことです。
色は分かるが暗いと使えないセンサーから、暗くても使えるが色が分からないセンサーへ。目が主役を交代させている。
色を捨てる代わりに、見えることを取っているわけです。
夜道で猫や車の存在に気づけるのは、この切り替えのおかげ。感度を上げる代償として、色の情報が失われています。カメラでいえば、感度を上げるほど画質が荒くなるのと似ています。
おまけ:夕暮れ時は、赤より青が目立つ
切り替わりの途中では、面白いことが起きます。
桿体細胞は青や青緑あたりの光にいちばん強く反応します。逆に、赤のような波長の長い光はうまく受け取れません。
その結果、暗くなるにつれて赤いものは沈んで見え、青いものが浮かび上がって見えるようになります。
昼間は黄色い花のほうが明るく目立っていたのに、夕方になると緑の葉のほうが明るく見える。これはプルキンエ現象と呼ばれています。
夕暮れの散歩で、花壇を眺めてみてください。昼と夜で、目立つ色が入れ替わっているはずです。
明日、こう話せる
夜道を並んで歩いているときが、いちばん自然です。
「夜って色が分からないでしょ。あれ暗いからじゃなくて、目が別のセンサーに切り替わってるんだって」
相手が「え、そうなの」となったら、続けます。
「色が分かるほうは暗いと働かないから、色を捨てて感度が高いほうに交代してる」
そのあと「だから夕方は赤より青のほうが目立つんだよ」と足すと、目の前の景色で確かめられます。話しながら実演できるのが、この話のいいところです。
