ナマケモノというと、平和な生き物という印象があります。
木の枝にぶら下がって、ほとんど動かず、一日中眠っている。危険とは縁遠い暮らしに見えます。
ところが彼らの死因の半数は、トイレに関係しています。
排泄のためだけに、地上へ降りる
ナマケモノは木の上で生活しています。食べるのも寝るのも枝の上。動きが遅いので、地上は危険な場所です。ジャガーやワシは、そこで待っています。
それなのに、彼らは定期的に木を降ります。排泄のためです。
頻度はおよそ週に1回。資料によっては数週間に1回とも書かれています。根元まで下りると、地面に穴を掘って用を足し、また登っていく。
この時間が命取りになります。ナショナル ジオグラフィックによれば、大人のミツユビナマケモノで報告されている死因の半数が、地上近くで捕食者に襲われたものだそうです。
枝の上にいれば安全なのに、わざわざ降りて襲われる。世界で最も危険なトイレかもしれません。
毛の中に、蛾と藻が住んでいる
では、なぜそんな危険を冒すのか。
2014年、ウィスコンシン大学マディソン校のジョナサン・パウリ氏らが、ひとつの仮説を発表しました。毛の中の住人のためだというものです。
ナマケモノの体毛には、ナマケモノガと呼ばれる蛾が住み着いています。この蛾は、ナマケモノが地上で排泄するときに糞へ移り、そこに卵を産む。糞は幼虫の食べものであり、すみかにもなります。
そして、見返りがあります。
| 順番 | 起きること |
|---|---|
| 1 | 降りて排泄し、蛾が糞に卵を産む |
| 2 | 育った蛾が毛に住み着く |
| 3 | 毛の中の窒素分が増える |
| 4 | 窒素を養分に藻が育つ |
| 5 | 毛づくろいで藻を食べる |
葉っぱばかりでは栄養が足りません。そこで自分の体の上で藻を育てて、それを食べているわけです。
体が畑になっている、と言ってもいい。命がけで降りるのは、その畑を維持する作業だという説です。
おまけ:ただし、この説は決着していない
面白い話なのですが、正直に書いておきます。
この仮説には反論もあり、2021年には相利共生モデルを否定する論文も出ています。天敵に見つかりにくくするため、木の栄養になるよう根元へ返すため。ほかにも説があります。
なぜ危険を冒して降りるのかは、いまも決着していません。
毎週きちんと命を賭けているのに、その理由を人間はまだ説明できていない。動物園で何百回も観察されている生き物ですら、これです。
生き物の行動の理由は、思っているよりも分かっていないものですね。
明日、こう話せる
動物番組の話題が出たときに使えます。
「ナマケモノって、死因の半分がトイレなの知ってる?」
たいてい「どういうこと」と返ってきます。
「木の上で暮らしてるのに、うんちのときだけ地面に降りるんだよ。動きが遅いから、そこで食べられる。しかも降りる理由自体、まだよく分かってない」
そして最後にこれを足します。
「毛の中に蛾が住んでて、そのおかげで藻が生えて、その藻を食べてるって説があるんだって。体が畑になってる」
のんびりした生き物という印象が、いい具合に崩れます。
