金星は1日のほうが1年より長い。
雑学としてよく紹介される話です。自転が遅すぎて、ぐるりと1回転するあいだに太陽のまわりを一周してしまう。聞くたびに感心していました。
半分正しくて、半分違います。「1日」の数え方で答えがひっくり返ります。
たしかに、1回転に243日かかる
まず数字から確認しましょう。JAXAの資料によれば、こうなっています。
- 自転周期(1回転にかかる時間)…243.02日
- 公転周期(太陽を一周する時間)…224.7日
たしかに自転のほうが長い。1回転し終わる前に、1年が過ぎてしまう。ここまでは、よく聞く話のとおりです。
金星の1日は地球の8か月ぶん、というわけですね。
「1日」には、数え方が2つある
ところが、ここに落とし穴があります。
私たちが日常で使う「1日」は、天体が1回転する時間のことではありません。太陽が昇ってから、次に昇るまでを1日と呼んでいます。
地球ではこの2つがほとんど同じなので、区別を意識しません。ずれはたった4分ほどです。
金星は違います。
| 数え方 | 長さ |
|---|---|
| 自転を1回転する時間 | 約243日 |
| 太陽が昇ってから次に昇るまで | 約117日 |
| 太陽を一周する時間(1年) | 約225日 |
日の出から日の出までで数えると、117日。1年である225日より、はるかに短くなります。
なぜ縮むのか。金星は他の惑星と逆向きに自転しているからです。自転と公転が逆方向なので、両者の動きが打ち消し合わず、足し合わさる形になる。その結果、太陽が空を横切る速さだけが早まります。
つまり金星の1年のあいだに、太陽はおよそ2回昇ります。1年に2日しかない、と言い換えてもいい。
「1日が1年より長い」は、回転の話としては正しく、太陽の話としては誤りでした。
おまけ:なぜ逆に回っているのかは、分かっていない
そもそも、なぜ金星だけ逆向きなのか。
太陽系のほかの惑星は、そろって同じ向きに自転しています。金星だけが反対。おかげで金星では、太陽は西から昇って東に沈みます。
理由は、まだ分かっていません。
JAXAは2つの考え方を挙げています。ひとつは、惑星ができるとき岩の塊がぶつかった向きの偶然という説。もうひとつは、金星の分厚い大気が太陽の引力に引かれ、長い時間をかけて地面を引きずったという説です。
日本の探査機「あかつき」も、この謎に挑んできました。隣の惑星が、なぜ逆回りなのかすら決着していない。 意外と近所のことも分かっていないものです。
明日、こう話せる
宇宙の話や、星の話題が出たときに使えます。
「金星って1日が1年より長いって聞くけど、あれ半分間違いなんだよ」
たいてい「聞いたことある」と乗ってきます。
「1回転するのに243日で、1年が225日。だから回転だけ見れば長い。でも日の出から次の日の出までで数えると117日で、1年より短い」
そして最後にこれを足します。
「金星だけ逆向きに回ってるから、太陽が西から昇るんだよ。理由はまだ分かってない」
数字の話で始めて、分かっていない話で終える。雑学としては、ちょうどいい着地です。
