メールアドレスの真ん中にある「@」。
毎日のように打っているのに、なぜあの記号なのかは考えたことがありませんでした。何か深い意味があって選ばれたのだろう、くらいに思っていました。
余っていたからです。
選ばれた理由は「他に使い道がなかったから」
1971年、レイ・トムリンソンという技術者が、インターネットの前身であるARPANETで世界初の電子メールを実装しました。
このとき困ったのが、利用者の名前と、その人がいるコンピューターの名前をどう区切るかです。あいだに何か記号を挟みたい。
条件がありました。
- 人の名前に使われていないこと
- プログラムなどで、すでに広く使われていないこと
この両方を満たす記号を、キーボードの上から探していく。そして残ったのが「@」でした。当時いちばん使い道のない記号だったわけですね。
しかも読み方が都合よくできていました。at と読めば「〜にいる」という意味になる。この人は、あちらのコンピューターにいます。そのまま意味が通ります。
消去法で選ばれた記号が、意味まできれいにはまった。運のいい記号です。
もとは、壺をあらわす単位だった
では、それ以前の@は何だったのか。
長らく起源は不明でしたが、2000年ごろ、イタリアの歴史学者ジョルジョ・スタビーレが古い手紙の中から見つけ出しました。
1536年、フィレンツェの商人フランチェスコ・ラピがセビリアからローマへ宛てた手紙。そこに、今と同じ形の@が書かれていたのです。
意味は「アンフォラ1つぶん」。アンフォラとは、古代の地中海で穀物や液体を運ぶのに使われた素焼きの壺で、そこから容積の単位になった言葉です。
つまり@は、もともと荷物の量を書くための記号でした。
その名残は今も残っていて、スペイン語やポルトガル語では@を「アローバ」と呼びます。これは重さの単位の名前です。
おまけ:世界では、動物園みたいな名前で呼ばれている
各国での呼び名を見ていくと、様子がおかしくなってきます。
| 言語 | 呼び名の意味 |
|---|---|
| ドイツ語・オランダ語 | サルの尻尾 |
| イタリア語・韓国語 | カタツムリ |
| デンマーク語・スウェーデン語 | ゾウの鼻 |
| ロシア語 | 子犬 |
| フィンランド語 | ネコの尻尾 |
| ノルウェー語 | ブタの尻尾 |
| ハンガリー語 | 長虫、ウジ虫 |
| 台湾 | 小さなネズミ |
| トルコ語 | 耳 |
同じ記号を見て、全員が違う生き物を思い浮かべている。
日本語の「アットマーク」は、この中ではずいぶん真面目な部類ですね。何かの動物に見立てる文化がなかったのが、少し惜しい気もします。
明日、こう話せる
メールアドレスを書いているときや、教えているときが出番です。
「@がメールに使われてる理由って知ってる?」
たいてい「at だからでしょ」と返ってきます。半分正解です。
「それもあるけど、いちばんの理由は誰の名前にも使われてなかったから。区切り記号にするのに、余ってたのが@だけだったんだって」
そして最後にこれを足します。
「あと、あれドイツだと『サルの尻尾』、ロシアだと『子犬』って呼ばれてる。ハンガリーは『ウジ虫』」
たいてい「ひどい」と言われます。次に見たときは、たぶんサルの尻尾に見えます。
