白目があるのは人間だけ。
だから目配せができるし、どこを見ているか相手に伝わる。有名な話ですよね。私もそう覚えていました。
この説、一度ひっくり返されています。そのあと、形を変えて戻ってきました。
1997年、ネイチャーに載った
発端は、小林洋美さんと幸島司郎さんの報告です。当時、東京工業大学に所属していた研究者ですね。
霊長類の全種のほぼ半数にあたる種の目を集めて、外から見える形を比べました。
結果はこうでした。ヒトは目の輪郭に占める白目の割合がいちばん大きい。そして目の形そのものが、横に細長い。
ここから2つの役割が提案されます。
- 目を大きく動かして、視野を広げるため(とくに横方向)
- 相手の視線の向きを、見て取りやすくするため
視線シグナル仮説と呼ばれるようになりました。目が、言葉を使わない合図の道具になっている。きれいな説明ですよね。
言われてみれば、たしかに人の目はよく喋ります。黙ったまま相手の目だけ見て、何かを伝えようとした経験は誰にでもあるはずです。
2015年、ゴリラと比べたら同じだった
ところが、話はここで終わりませんでした。
2015年、別の研究チームが検証します。ゴリラとヒトの画像を、以前よりずっと多く集めて測り直したのです。
分かったのは2つ。ヒトの目は、たしかにゴリラより細長い。ただし白目の露出した割合は、両者でほとんど同じでした。とくに視線を横にそらしたときに、その傾向がはっきり出ます。
2021年には、また別のチームが同じ結果を再現しました。
「人間だけ」という前提が、揺らぎはじめます。
おまけ:測っていたのが、横だけだった
さらに2021年、狩野文浩さんらのチームが切り込みました。
指摘はこうです。これまでの研究は、白目の露出を横方向でしか測っていなかった。
画像の解析をやり直すと、たしかに多くの特徴はヒトと他の類人猿でよく似ていました。しかし、ひとつだけ決定的に違う点があったのです。
ヒトの白目は、むらなく一様に白い。
大きさでも、割合でも、細長さでもない。むらがないことが決め手でした。
一様に白いと何がいいのか。目の輪郭と虹彩の両方が、はっきり見分けられるようになります。視線の向きを読むのに必要な手がかりが、2つとも揃うわけですね。
研究チームは、さらに意地悪な条件で試しました。画像を暗くしたり、遠ざけたりしてみる。
すると、ヒトの目はどちらの手がかりも見えたままでした。ほかの類人猿では、目の輪郭がほとんど分からなくなった。
つまり問題は、白目の量ではなく質。暗い場所でも、離れていても通じる。そこがヒトの目の強さでした。
否定されて、測り直されて、別の形で戻ってくる。研究が進むとはこういうことなのだな、と思わされます。
明日、こう話せる
誰かと目が合ったときや、動物園でサルを見たときが出番です。
「白目があるのは人間だけ、って聞いたことない?」
たいてい「あるある」と返ってきます。
「あれ、一回否定されてるんだよ。ゴリラと測り比べたら、白目の見えてる割合は同じくらいだった」
そして最後にこれを足します。
「でも最近また分かってね。人間の白目はむらなく真っ白なんだって。だから暗くても遠くても、どこ見てるか分かる」
定説がひっくり返って、また立ち上がる。話として、ひとつぶんお得な気がします。
