海外へ行くとき、まず時差を調べますよね。
ニューヨークは14時間、ロンドンは9時間。国ごとに決まっているものだと思っていました。どこへ行っても、調べれば答えがある。
南極だけは、決まっていません。
基地が、それぞれ勝手に決めている
南極の時刻には、国際的な取り決めがありません。各国の観測基地が、自分たちで決めています。
決め方はおおむね2通り。領有権を主張している国に合わせるか、物資を運んでくる拠点の国に合わせるかです。
- 昭和基地 … 協定世界時プラス3時間。日本との時差は6時間
- マクマード基地、南極点のアムンゼン・スコット基地 … ニュージーランド時間
- パーマー基地、ロゼラ基地 … 協定世界時マイナス3時間
南極点の基地がニュージーランド時間なのは、補給の玄関口がクライストチャーチだからだそうです。地理ではなく、物流で決まっているわけですね。
昭和基地のほうも、日本時間に合わせてはいません。日本から直線距離で約14,000キロ。時差6時間というのは、現地の経度に沿って決めた数字です。
その結果どうなるか。同じ大陸の中に、15時間の差があります。隣の国どころではありません。
そもそも、決めようがない
なぜこんなことになるのか。理由は地理にありました。
南極大陸は、すべての経線の上に乗っています。
地球の経線は、南極点で1点に集まりますよね。その南極点が大陸の上にある。だから理論上、南極はすべてのタイムゾーンに属することになります。
南極点に立って数歩あるけば、いくつもの時間帯をまたげてしまう。経線で決めるという方法が、最初から成り立たないわけです。
太陽で決めることもできません。南極圏より南では、夏至と冬至のころに白夜と極夜が訪れます。一日中明るいか、一日中暗いか。朝と夜という手がかりが消えてしまう。
経線でも太陽でも決められないなら、あとは人間の都合で決めるしかない。そういう結論です。
ちなみに昭和基地では、白夜が11月から2か月ほど続きます。真夜中に太陽が出ている中で、時計だけが夜を指している。時刻が人間の決めごとにすぎないことが、よく分かる環境ですね。
おまけ:南緯80度より南は、だいたい協定世界時
実務の話をすると、もっと割り切っています。
南緯80度より南のほとんどの地域では、協定世界時がそのまま使われているとされています。時計そのものがあまり置かれていない、という事情もあるようです。
一方で、変わった例もありました。ノルウェーのトロール基地には、夏時間があるのです。
通常は協定世界時と同じ。そこから夏になると、1時間ではなく2時間進めます。
白夜の土地で、時計を2時間進める。何のためなのかを想像すると、楽しくなってきますね。ちなみに昭和基地に夏時間はありません。
明日、こう話せる
時差の話が出たときが出番です。
「南極って何時だと思う?」
たいてい「どこかの時間に合わせてるんでしょ」と返ってきます。半分正解です。
「国際的な決まりがないんだって。基地ごとに勝手に決めてる。昭和基地は日本より6時間遅れで、南極点の基地はニュージーランド時間」
そして最後にこれを足します。
「南極点って全部の経線が集まる場所だから、数歩あるくだけで時間帯をまたげちゃう。だから決めようがないらしいよ」
地図を思い浮かべながら話せます。世界地図の下の端が、急に立体的に見えてくる話です。
