グリーンランド。緑の島。
名前だけ聞くと、牧草地が広がる豊かな土地を思い浮かべます。ところが実際は、大部分が分厚い氷に覆われています。
人を集めたかったから、そう名付けた。千年前の記録に、そう書かれています。
サガに、動機がはっきり書いてある
この島に名前を付けたのは、赤毛のエイリークという人物です。西暦982年、グリーンランドの南西部に到達しました。
そして北欧の物語『赤毛のエイリークのサガ』には、その理由がこう記されています。
「彼はその国をグリーンランドと名付けた。魅力的な名前を付ければ、人々がやって来てくれると考えたからだ」
身も蓋もありません。名前で釣ったと、本人側の記録が認めているわけですね。
しかも実行力がありました。985年にアイスランドへ戻って宣伝し、400人を超える入植者を集めたと伝えられています。
千年前のキャッチコピーが、そのまま国の名前として残っている。広告としては、異例の寿命です。
ただし、当時は本当に緑だったかもしれない
ここで話が少しややこしくなります。
氷床に残された記録や、貝の殻に含まれる成分を調べると、西暦800年から1300年ごろのグリーンランド南部は、今よりずっと暖かかったことが分かっています。
つまりエイリークが見た海岸は、本当に緑だった可能性がある。
| 説 | 中身 |
|---|---|
| 誇大広告説 | 人を集めるために、実態より良い名前を付けた |
| 実態どおり説 | 当時は温暖で、南部は実際に緑だった |
サガには「魅力的な名前を」とありますから、宣伝の意図があったのは確かでしょう。ただ、まったくの嘘だったとも言い切れない。
見栄えのいい名前を選んだけれど、内容もそこそこ本当だった。よくできた広告というのは、だいたいそういうものかもしれません。
おまけ:そのあと、寒くなってしまった
問題はここからです。
14世紀までに、グリーンランドの気温は下がっていきました。夏の暑さは弱まり、作物は育ちにくくなり、海には氷が増えます。
入植地はやがて立ち行かなくなり、消えていきました。
残ったのは、名前だけ。
宣伝したときは本当だったのに、気候のほうが変わって、あとから嘘になってしまった。名前と実態がずれている理由としては、なかなか壮大です。
いま地図を開いて「グリーンランド」の字を見ると、千年分の時間が挟まっているのが分かります。
明日、こう話せる
地理の話や、旅行先の話題で使えます。
「グリーンランドって、なんで緑なのに氷だらけなんだと思う?」
たいてい「名前と逆だよね」で止まります。
「入植者を集めたかったから。千年前の記録に『魅力的な名前を付ければ人が来ると考えた』って書いてあるんだよ」
そして最後にこれを足します。
「ただ当時は今より暖かくて、本当に緑だった可能性もあるらしい。そのあと寒くなって、名前だけ残った」
誇大広告の話で笑わせて、気候の話で締める。小さい話から大きい話へ移れる、便利な持ちネタです。
