シャンプーのボトルの側面に、ギザギザがついています。
目を閉じたままでもリンスと区別できるように。ここまでは、知っている人も多いですよね。
では、あれを作ったのはどこで、どうやって全社に広まったのか。
1991年、花王が「きざみ」を付けた
花王はあのギザギザを「きざみ」と呼んでいます。
公式サイトに、きっかけとなった消費者の声が載っていました。
- 「シャンプーとコンディショナーの容器は同じで紛らわしい」
- 「洗髪時、目を閉じた状態でも区別がつくようにしてほしい」
容器の研究が始まったのは1989年。そして1991年10月、きざみの入った初めてのシャンプー「エッセンシャル」が発売されます。
花王自身は、この経緯を「花王がいち早く対応し、1991年から世の中に広めた技術」と書いています。作った、ではなく、広めた。ここに引っかかりました。
権利を手放した理由は、善意だけではなかった
花王はきざみについて、実用新案を申請していました。
ところが、その申請を自ら取り下げます。そして業界各社に、シャンプーにきざみを付けないかと呼びかけていきました。
美談として語られることが多い話です。ただ、花王が挙げている狙いを読むと、もう少し手強い判断が見えてきます。
業界内で基準がバラバラになる混乱を防ぐため。
考えてみると、たしかにそうなんですよね。触って区別する記号は、全社が同じものを使っていないと機能しません。
もし花王が権利を独占したら、他社はそれぞれ別の印を考えます。丸い突起の会社、縦線の会社、へこみの会社。手を伸ばして触った瞬間に、どのメーカーの流儀だったか思い出さないと分からなくなる。
独占した瞬間に役に立たなくなる発明だったわけです。
現在はライオン、P&G、資生堂などにも広がっています。ライオンの公式サイトには「ほとんどのメーカーが採用しています」と書かれていました。
おまけ:触って分かる記号は、3種類ある
実は、きざみ以外にも触覚記号があります。ライオンの説明が丁寧でした。
- シャンプー:ボトル側面のギザギザ。ポンプタイプは上部にも付く
- ボディソープ:ボトル側面の一直線状の印
- つめかえ袋:右上部のへこみ。シャンプーは3つ、ボディソープは1つ
つめかえ袋の印は、つめかえ製品が普及してきたのを受けてライオンが考案したもので、1998年秋から入っています。
そしてもうひとつ。コンディショナー、リンス、トリートメントには、何も付いていません。
付け忘れではなく、意図してそうなっています。何も触れないこと自体が、「こちらはシャンプーではない」という情報になっているわけですね。
お風呂場で、情報が3種類の手ざわりとして整理されている。そう思うと、あのギザギザが少し違って見えてきます。
明日、こう話せる
お風呂上がりや、シャンプーを買ったときが出番です。
「シャンプーのボトルのギザギザ、あれ作った会社知ってる?」
たいてい「どこだろう」で止まります。
「花王なんだって。1991年から。しかも実用新案の申請を取り下げて、業界全体に広めた」
そして最後にこれを足します。
「全社が同じ印にしないと意味がないから。独占したら使えない発明なんだよ」
発明を手放すのが正解になる場合がある。仕事の話にも、つなげやすいネタです。
