大丈夫ですか。大丈夫です。あ、大丈夫です。
1日に何度も口にする言葉です。心配、返事、やんわりした断り。ずいぶん幅広く働いてくれます。
もとは人を指す言葉でした。意味は「きわめて立派な男」です。
「丈夫」は、身長一丈の男
分解してみます。
「丈」は長さの単位です。いまの日本では一丈が約3.03メートル。ただし中国の周の時代の一丈は、それよりずっと短く、1.7メートルから1.8メートルほどとされています。資料によって数字に幅があります。
これがちょうど、成人男性の身長にあたる長さでした。人の背丈を基準にした単位だったわけですね。
そして「夫」は、おっとではなく男性のこと。
つまり「丈夫」とは、身長が一丈ある男。転じて、一人前の男、立派な男子を指す言葉になりました。
それをさらに強めたのが「大丈夫」です。きわめて立派な男。中国の古典では、理想的な人格を表す言葉としても使われています。
「大丈夫ですか」は、本来なら「あなたは立派な男ですか」と尋ねていることになります。
人から、状態へ
日本に入ってきたときも、意味は「立派な男子」でした。
それが少しずつ横滑りしていきます。国語辞典の語誌によれば、形容動詞的な使い方が広がったのは中世の末ごろから。人そのものではなく、しっかりしている状態を指すようになりました。
| 段階 | 意味 |
|---|---|
| 1 | 身長一丈の男 |
| 2 | 立派な男子 |
| 3 | 非常に強い、しっかりしている |
| 4 | 間違いがない、問題がない |
明治以降になると、「丈夫」と「大丈夫」で役割が分かれます。丈夫は体が達者なこと、大丈夫は危なげがないこと。いまの使い分けは、このころ固まったものです。
人を褒める言葉が、状態を保証する言葉になった。主語が人間から、状況そのものへ移っているわけですね。
おまけ:意味は、いまも動いている
面白いのは、この滑りがまだ続いていることです。
レジで袋を勧められたとき、「あ、大丈夫です」と言いませんか。あれは断りの言葉として働いています。
「問題ありません」から「必要ありません」へ。肯定の言葉が、そのまま否定の返事になっている。
千数百年前に「立派な男」だった言葉が、いまコンビニで「いりません」を担当している。まだ滑っている途中なのだと思うと、次の百年でどこへ行くのか少し気になります。
明日、こう話せる
誰かに「大丈夫?」と聞かれたときが、いちばん自然です。
「大丈夫って、もとの意味知ってる?」
たいてい「問題ないってことでしょ」と返ってきます。
「もともと人のことなんだよ。丈夫って身長一丈の男って意味で、一人前の男のこと。それを強めたのが大丈夫。つまり『すごく立派な男』」
そして最後にこれを足します。
「だから『大丈夫ですか』は、本来なら『あなたは立派な男ですか』って聞いてることになる」
言われた側は、たぶんもう一度「大丈夫です」と答えます。そこでもう一度笑えます。
