外国人の名前は、名前と名字でできている。
ジョン・スミス、マリア・ガルシア。順番は違っても、家に付いた名字があって、家族はそれを共有している。世界中そうだと思っていました。
アイスランドには、その名字がありません。
家族全員、後ろが違う
アイスランドでは、名字の代わりに父親の名前を使います。
父の名に「〜の息子」を意味する son、「〜の娘」を意味する dóttir を付ける。それだけです。
具体例を見たほうが早いですね。
| 続柄 | 名前 | 意味 |
|---|---|---|
| 父 | ヨウン・エイナルソン | エイナルの息子ヨウン |
| 息子 | オウラヴル・ヨウンソン | ヨウンの息子オウラヴル |
| 娘 | シグリーズル・ヨウンスドッティル | ヨウンの娘シグリーズル |
父の後ろは「エイナルソン」、子どもは「ヨウンソン」と「ヨウンスドッティル」。親子で一致しません。
家に付いた名前ではなく、親が誰かを説明する言葉なんですね。世代が変われば当然、中身も変わります。
だから家族の名簿を作ると、全員バラバラに見えます。
だから電話帳はファーストネーム順
ここで実務的な問題が起きます。名字で並べられません。
そこでアイスランドの電話帳などの人名簿は、ファーストネームのアルファベット順で作られています。日本でいえば、下の名前だけで五十音順に並んでいるようなものです。
呼び方も同じです。正式な場面でも、ファーストネームで呼びます。
元首相のヨハンナ・シグルザルドッティルも、報道や公の場では「ヨハンナ」。首相を下の名前で呼ぶわけですね。後ろは「シグルズの娘」という説明なので、そちらで呼んでも仕方がありません。
おまけ:名前は、勝手に付けられない
もうひとつ驚いたことがあります。
アイスランドでこれまで使われたことのない名前を子どもに付けたい場合、命名委員会の許可が必要です。
審査の基準は「アイスランド語になじむかどうか」。具体的には、アイスランド語のアルファベットだけで書けること、そして文法に合わせて語尾が変化できることが求められます。
アイスランド語は、名詞が文中の役割によって形を変えます。そこにはまらない名前は、文章の中で扱えなくなってしまう。
自由がないというより、言語のほうを壊さないための仕組みなのだと思います。人口の少ない国が、自分たちの言葉を守る方法のひとつなのでしょう。
明日、こう話せる
海外の話題や、名前の話が出たときに使えます。
「アイスランドって名字がないの知ってる?」
たいてい「じゃあ何て呼ぶの」と返ってきます。
「父親の名前に、息子ならソン、娘ならドッティルを付けるんだって。だから親子で後ろが違う。家族全員バラバラ」
そして最後にこれを足します。
「名字で並べられないから、電話帳が下の名前のアルファベット順。首相のことも下の名前で呼ぶ」
名字がないだけで、社会の仕組みがここまで変わる。そこが面白いところです。
