道が混めば、渋滞する。
当たり前のことですよね。車も人も、ある程度を超えて詰まると前に進めなくなります。物理的にそうなるしかない、と思っていました。
アリは、詰まりません。
占有率が80パーセントでも落ちなかった
2019年、研究チームがアルゼンチンアリで実験をしました。
やり方はこうです。400匹から25,600匹まで大きさの違うコロニーを用意し、巣とエサ場をつなぐ橋の幅も変える。こうして混み具合を自在に操作します。
そして撮影を170回繰り返し、流れる量、歩く速さ、ぶつかった回数を記録しました。
比較の基準になる数字があります。人や車の場合、道の占有率が40パーセントを超えると、流れが遅くなりはじめる。ここから先は、混むほど遅くなる一方です。
アリはどうだったか。
80パーセントまで埋まっても、流れが落ちる兆しがありませんでした。
低い密度のうちは、数が増えるほど流れる量も増えていく。ここまでは人間と同じです。ところが混んでくると、流れる量が一定のまま保たれる。減らないのです。
やっていたのは、3つの使い分け
では、どうやっているのか。一匹ずつ追跡した結果、行動を切り替えていることが分かりました。
- 中くらいの混み具合 … 速度を上げる
- かなり混んできたら … ぶつかるのを避ける動きに切り替える
- 混みすぎている道 … そもそも入らない
最後がいちばん賢いですね。満員の橋を見て、引き返す。あるいは空くまで待つ。
ここで大事なのは、アリの速度が落ちないわけではないという点です。状況に応じて、やることを変えている。速く行ける場面では速く行き、危ない場面では衝突を減らし、無理な場面では参加しない。
ちなみにアリは、追い越しをしません。抜かそうとしないから、無理な割り込みも起きない。高速道路とはずいぶん事情が違います。
おまけ:人間が真似できない理由
そもそも、こういう交通をする動物自体が珍しいのです。
群れで移動する生きものは多いのですが、その大半は全員が同じ方向に進みます。渡り鳥も魚の群れもそうですよね。行きと帰りが同じ道ですれ違うのは、人間とアリくらいだそうです。
では、なぜアリにできて人間にできないのか。研究チームは3つ挙げていました。
ひとつは体です。アリは外骨格に守られているので、ぶつかることを怖がらない。人間が速度を落としたくなる場面で、加速できてしまう。
もうひとつは目的。コロニー全体が、エサを運ぶという同じ目的を共有しています。
そして決定的なのが3つ目でした。アリは混み具合に合わせて、交通ルールそのものを変えている。対して車の交通は、どれだけ空いていても混んでいても「赤信号で止まる」という同じルールで動きます。
ルールが固定されているほうが詰まる。だから論文は、自律走行車の名前を挙げていました。協調して動くようプログラムできれば、アリのような交通が作れるかもしれない、と。
渋滞を解く鍵が、足もとを歩いているわけです。
明日、こう話せる
渋滞にはまっているときが出番です。
「アリって渋滞しないらしいよ」
たいてい「そんなわけない」と返ってきます。私もそう思いました。
「道が8割埋まっても流れが落ちないんだって。人間は4割で遅くなりはじめるのに」
そして最後にこれを足します。
「混みすぎてる道には、そもそも入らないらしい。あと追い越しもしない」
渋滞中に言うと、少し気まずい空気になるかもしれません。それも含めて使いどころのある話です。
