ミルクを出すのは哺乳類だけ。
鳥のヒナは、親が運んできた虫や種を口移しでもらって育つ。学校でそう習った記憶があります。
ハトは、ミルクを出します。しかもオスも出します。
のどの袋から、白い液体が出る
ハトののどには「そのう」という袋があります。食べたものを一時的にためておく器官ですね。
繁殖期になると、ここからミルク状の液体が出ます。ピジョンミルクと呼ばれるものです。
飲ませ方も独特でした。ヒナが親の口の中に自分のくちばしを突っ込んで吸い出します。親が吐き戻すのを受け取る形ですね。
そして、ここが本題です。
このミルク、オスからも出ます。哺乳類のように性別で役割が決まっていません。オスもメスも、同じようにヒナに飲ませます。
中身も立派なものでした。研究によれば、たんぱく質がおよそ6割、脂肪が3割あまり。かなり濃い食事です。
さらに驚いたのが、分泌を促しているホルモン。プロラクチンといって、哺乳類が母乳を出すときに働くものと同じでした。
正体は、はがれ落ちた細胞だった
ただし、ハトに乳腺はありません。
では何が出ているのか。論文の説明を読んで、少し言葉を失いました。
そのうの内側をおおっている細胞が、脂をたっぷりため込みながら増えていく。やがて壁から離れ、はがれ落ちる。その細胞のかたまりが、凝乳のような状態になったもの。これがピジョンミルクの正体です。
論文では「チーズのような物質」と表現されていました。白くてどろりとしているのは、脂を抱えた細胞が集まっているからなんですね。
つまりハトは、液体を分泌しているのではありません。自分の体の一部を崩して、ヒナに食べさせている。
哺乳類の母乳は、乳腺の細胞が成分だけを外へ送り出します。ハトは細胞ごと差し出す。同じ「ミルク」でも、作り方はまるで違っていました。
ついでに言うと、このかたまりには細菌も含まれています。汚れではなく、ヒナの腸に最初の住人を送り込む役目があるようです。
おまけ:フラミンゴとペンギンも出す
同じことをする鳥が、ほかにもいます。
- フラミンゴ … オスもメスも出す
- コウテイペンギン … オスが出す
そして研究者たちは、興味深い見方をしています。ハトの「授乳」と哺乳類の授乳は、別々に進化して、たまたま似た機能にたどり着いたのではないか、と。
2012年には、こんな実験も行われました。ピジョンミルクをニワトリのヒナに与えてみる、というものです。
結果、成長が速くなり、エサの効率も良くなった。腸の免疫に関わる遺伝子の働きが強まり、腸内細菌の種類も増えました。
哺乳類の母乳が子の免疫を育てるのと、同じようなことが起きていたわけですね。似ているのは見た目だけではありませんでした。
明日、こう話せる
公園でハトを見かけたときが出番です。
「ハトって、ミルクでヒナを育てるの知ってる?」
たいてい「鳥なのに?」と返ってきます。私もそう思いました。
「のどの袋から出るんだよ。しかもオスも出す。哺乳類が母乳を出すのと同じホルモンが働いてる」
そして最後にこれを足します。
「ただ、正体はのどの内側の細胞がはがれたもの。チーズみたいな塊なんだって」
きれいな話から、少し不穏なほうへ落とせます。駅前のハトを見る目が変わる話です。
