いま、自分の脇腹をくすぐってみてください。
指を立てて、こしょこしょと。
何も起きませんよね。他人に同じことをされたら、身をよじって笑ってしまうのに。動きも、触れている強さも、皮膚の場所も同じはずです。
違うのは、脳が事前に知っているかどうかだけです。
脳は、自分の動きの結果を先に計算している
体を動かすとき、脳は指令を出すだけではありません。
その動きの結果、どんな感覚が返ってくるかを、同時に予測しています。この予測を担っているのが小脳です。
そして実際に感覚が届いたとき、予測と一致していれば「これは自分がやったことだ」と判断し、反応を抑えます。先に答えを知っている問題は、驚きようがない。そういう仕組みですね。
他人の手はここが読めません。いつ、どこを、どのくらいの強さで触ってくるか分からない。予測が外れるので、感覚がそのまま届きます。
くすぐったさとは、予測できなかった量のことなのかもしれません。
ロボットを2台使って確かめた実験
これを実験で確かめた研究があります。
1998年、ロンドンの研究チームが科学誌『Nature Neuroscience』に発表したものです。装置がなかなか変わっています。
被験者は左手で、1台目のロボットのアームを動かします。すると2台目のロボットが動いて、右手のひらをなでる。動かしているのは自分、触っているのは機械という状態です。
| 触っているもの | くすぐったさ |
|---|---|
| 他人の手 | 強い |
| ロボット越しの自分の手 | 弱い |
同じ機械が同じように触っているのに、自分で動かしたときのほうが「くすぐったくない」と評価されました。
さらにfMRIで脳を調べると、外から触られたときのほうが、触覚を担当する領域の活動が大きくなっていた。感覚が届く量そのものが、変えられていたわけです。
おまけ:コンマ数秒ずらすと、くすぐったくなる
この実験には、いちばん面白い続きがあります。
同じ装置で、手を動かしてから刺激が届くまでにわずかな時間差をつけてみた。
すると、遅れが大きくなるほど、くすぐったさが増していったのです。
動かしているのは自分の手です。それでもタイミングがずれた瞬間、脳は「これは自分ではない」と判定を変えてしまう。
自分と他人の境目が、コンマ数秒で決まっている。そう考えると、少し不思議な気持ちになります。
明日、こう話せる
飲み会でも、家でも、その場で実演できるのがこの話の強みです。
「自分で自分をくすぐっても、くすぐったくないでしょ」
相手はたいてい、その場で試します。
「あれ、脳が先に『こういう感覚が来るぞ』って計算しちゃってるからなんだって。予測どおりだと反応を消される」
そして最後にこれを足します。
「ロボット使った実験があって、手を動かしてから触られるまでちょっと遅らせると、それだけでくすぐったくなるらしいよ」
自分の体で確かめられて、しかも理由が意外。雑談としては、かなり強い部類です。
