ハトが歩くとき、首を前後に振ります。
歩調に合わせてリズムを取っているように見える、あの動きです。私はずっと、歩くのに必要なバランス調整か何かだと思っていました。
実際にやっていることは、まるで逆でした。
首を振っているのではなく、首を止めているんです。
首は「先に出して、そこで固定」されている
動きをコマ送りで見ると、こうなっています。
- 首をすばやく前に突き出す
- その位置で首を止める
- 体が歩いて、首に追いつく
- また首を前に出す
つまり、首が止まっている時間のほうが圧倒的に長い。体は前に進んでいるのに、頭は空間の同じ場所に留まり続けています。
三脚に固定したカメラを、少しずつ前に置き直しているような動きです。
視界が流れると、餌も敵も見えない
なぜそんな面倒なことをするのか。景色を止めて見るためです。
ハトの目は頭についています。頭が体と一緒に前へ進めば、視界はずっと流れ続けます。
流れる景色の中から、地面に落ちた小さな餌を見つけるのは大変です。近づいてくる猫にも気づきにくい。
そこで頭だけを空間に固定して、静止した映像を確保する。見終わったら、また頭を前に送る。歩きながら、一歩ごとに写真を撮り直しているような見方です。
おまけ:景色が動かないと、首を振らなくなる
この説明を裏づける、面白い観察があります。
ハトをトレッドミルの上で歩かせ、周囲の景色が変わらない状況をつくると、首を振る動きが起きにくくなることが報告されています。
移動しているのに景色が流れないなら、頭を固定する必要がない。つまりあの動きは、歩行のためではなく視覚のためだったことになります。
ちなみに同じ仕組みは他の鳥にもあります。ニワトリの体をそっと動かしても、頭だけがその場に残ろうとする。動画で見ると、少し不気味なくらい正確です。
明日、こう話せる
駅前やコンビニの前で、ハトを見かけたときが出番です。
「あれ、首を振ってるんじゃなくて、止めてるんだよ」
相手が「え?」となったところで説明します。
「頭を先に出して固定して、体があとから追いつく。景色がブレると餌が見つけられないから」
このあと、たぶん二人でしばらくハトを凝視することになります。それも含めていい雑学です。
参考
- 鳥類の頭部安定化(head bobbing)に関する動物行動学の解説
- ハトの歩行と視覚の関係を調べた実験の紹介記事
