へそくり、という言葉。
おへその周りに隠しておくから、そう呼ぶのだろう。腹巻の中にお札を入れている絵が浮かびます。私はずっとそう思っていました。
有力なのは、糸巻きのほうです。
「へそ」は、麻糸を巻きつけた糸巻き
日本大百科全書によれば、へそくりの「へそ」は綜麻(へそ)を指すとされています。
聞き慣れない言葉ですが、紡いだ麻糸をつなぎ、巻きつけた糸巻きのことです。手のひらに乗るくらいの、糸のかたまりを想像してください。
昔の女性は、この綜麻を繰る内職をしていました。麻を紡ぎ、糸にして、巻いていく。家事の合間に、少しずつ進める地道な手仕事です。
当然、賃金は多くありません。それでも自分の働きで得たお金です。
そのわずかな賃銭を、こつこつ貯めておく。それが「へそくり金」と呼ばれました。
これが縮まって、へそくり。糸巻きの名前が、そのまま貯金の名前になったわけですね。
隠す金ではなく、稼いだ金だった
ここが一番おもしろいところです。
いまの「へそくり」には、家計からこっそり抜いておく、という後ろめたさがあります。ばれたら気まずい、隠し金のイメージですね。
ところが語源をたどると、自分で働いて得たお金でした。
| 現代のイメージ | 語源が指すもの | |
|---|---|---|
| お金の出どころ | 家計から抜く | 内職で稼ぐ |
| 性格 | 隠し金 | 自分の取り分 |
辞典の説明も、実は隠すことを中心には置いていません。日本大百科全書では、「家族共同の家計用ではなく、家族のだれかが個人的に使用できる私財」と定義されています。
隠しているかどうかより、自分のものであるかどうか。そちらが芯だったわけですね。
そう考えると、へそくりという言葉の印象が少し変わります。こそこそしたお金ではなく、自分の手で作った持ち分だった。
言葉のほうが、後から後ろめたくなっていったのかもしれません。
おまけ:おへそ説も、ちゃんと載っている
とはいえ、私が信じていた説も間違いだと決まったわけではありません。
同じ辞典には、別の説も併記されています。「へそ」は臍のことで、銭や貴重品を腹巻などで腹に巻きつけていたから、という説です。
言われてみれば、こちらも筋が通っています。
語源というのは、こういうものが多いですね。もっともらしい説がいくつも並んで、決着がつかない。綜麻説が有力とされてはいますが、断定はできません。
腹巻に巻いていた説も、少し捨てがたいと思っています。
明日、こう話せる
お金の話や、貯金の話題が出たときに使えます。
「へそくりの『へそ』って、おへそじゃないの知ってる?」
たいてい「え、違うの」と返ってきます。
「綜麻っていう、麻糸を巻いた糸巻きのこと。昔の女の人がそれを繰る内職をしてて、そのお金を貯めたのが『へそくり金』。それが略された」
そして最後にこれを足します。
「だからもともとは、家計から抜いた金じゃなくて自分で稼いだ金なんだよ」
へそくりをしている人がいたら、少し胸を張ってもらえる話です。
